ソウルに向け出発する [電動車いす海外旅行]の続きです。重度障害で介護が必要でも問題を解決しながら旅を楽しむ。「行ってみよう」と何かヒントになって旅の計画の一助になれば嬉しいです。
機内へ入るのが遅くなり、早く着席しなければならないため窓側への移動は止めた。私はビジネスクラスの最前列一B席に座って、窓際一Aにはナナさんに座っていただくことにした。
介助者が右利きなら右側が介助しやすいことは大事ポイントだけど、今回は通路から移動が短距離ですむ通路側内側の一Bに座ることにした。
もちろん座席の上にはお尻が痛くならないように、「滑り止め」と「エアクッション」を敷いてもらって。
介護の基本でいうと、私の右側に介助者が座る方が良い。
理由は飲み物などを飲ませて介助してもらうなら、右利きの介助者は右側からアプローチがラクだから。
二つ目の理由は、アクシデントがあったとしても最前列窓際であれば、私は他の人の脱出を邪魔することなく飛行機の中に取り残されれば済むだけの話。
「飛行機の中でどうやって座らせてもらうの?」
コレはよく聞かれる質問なんだけど説明がちょっと難しい。簡単に説明すると(豊かな想像力でおぎなってもらいたい。)
【機内で着席する方法】
ヘルパーAさんが、アイルチェアの私を後ろ向きで引いて通路に入る
ヘルパーBさんは、追いかけながら私の足や肘が両壁に当たらないか見守る
ビジネス最前列の座席と横並び
ヘルパーB:前側の両脚の間に立ち、両太ももを抱える
ヘルパーA:もう一人は背後から私の脇に手を入れる
二人で「いちにのさん」で抱えて座席方向に移っていく。
先ず通路側のアームの上に一度着地
次に座面上に移動
ちょっとずつの移動すると、抱える人への負担が少ない。
私は長年この方法で飛行機に乗らせてもらってきた。
そして、座席にすわると毎回
「あー無事に座れた」
ほっとして緊張が緩み、出発もまだなのに、私は一仕事終えて到着したかのようになってしまう。
これはヘルパーさんも同じ。いやもっとだろう。
重たいワタシを抱えるヘルパーさんが出発時にぎっくり腰にでもなったら大変だ。
介護してもらいながら、一緒に旅行を楽しみたいと願う私は、同行者の負担や疲労も配慮するよう心掛けている。(体重を減らすことがイチバン良いのだけど・・・)
一息つくと、前方搭乗口から、私のせいで待ちくたびれた乗客たちが重そうなカバンや土産らしきものを抱え、座席めがけて足早に通り過ぎていく。バタバタと慌ただしくなっている間、ナナさんは、さりげなく私の足元の土台セッティングを進める。
客室乗務員が、足元のクッションのことに言及するか、この旅行で最も恐れていることが起きるか・・・どうかだ。
さすがにカバンなど硬く目立つものは使わなかったけれど、ひざ掛け大判ショールなどを丸めて床と宙ぶらりんの足との隙間につめてもらった。足置き場を作ってもらったのだ。
ドキドキドキドキ ・・今回の旅行で一番緊張する瞬間だった。
二年前の離陸時に足の下に何も置いてはダメと言われ「両脚を浮かせたままの着席姿勢なら、もう韓国に行くことはできない」と思った。あまりにもツラすぎて。
元客室乗員で国際線機内のマネージャーをしていらしたナナさんから醸し出される「優雅さ」あるいは「何か」が、担当CAから私の足元へのダメ出しをなくしたようで
ダメだしどころか、CAはナナさんのリクエストに応え、ご親切にもブランケットなどを数枚渡してくださるではないか!
(あら 今回は大丈夫かも・・・(内なる声))
ブランケットをビニール袋から出して渡そうとするCAに、(足下に置くため)ビニール袋のままでくださいと良識も伝えるところなんか、さすがナナさん!「カムサハムニダ」とお礼を述べた。
ナナさんと、ビジネスクラス担当の笑顔が可愛いCAのおかげで、やっと私の足と身体はラクになった。あとは離陸を待つのみ。
私の体内からチクタク・チクタク・チクタクと海外サスペンス「二十四時間」ドラマのカウントダウンのような秒読み音が聞こえ始める。
航空機はゆっくりと進み、管制官から離陸の許可を待っていた。すると、ポンポンとコックピットからの合図音。客室乗務員もシートベルト着用となるため、私たちの席にはもう来ない。
「ポンポン」と機内に響き渡る音は、離陸に備える緊張音のはずが、私にはラッキー音にしか聞こえない。
人は状況次第で捉え方が都合よく変わるものだ。
隣のナナさんとは何も話さなかったが、私は「あーよかった」と声に出して叫びたかった!が、我慢。
緊張から解放され、上手くいった達成感でいっぱいだった。
みなさんありがとう!
機体が上昇して再びコックピットからポンと合図があると、すぐに食事の案内となり、白いナプキンのセッティングとウエルカムドリンクが開始された。
ビジネス座席ならではのリネンセッティング。
でも私は食事しないので微笑みながら断って、かわりに蓋つきカップに入った水を頼んだ。
私はこれまで飛行機の中で食事はしないと決めている。喉につまらない飲み物、味噌汁だけいただくといった程度。食べようと思ったら食べられるかもしれないけど、誤嚥でもして機内で大騒ぎになってしまっては大変。搭乗だけでもご迷惑かけてる感が半端なくあるので、リスクあることは避けたい。
朝から多く食事をしてないため血糖値が低いように感じ、ナツメのお茶をリクエストした。アシアナ航空の機内サーヴィスも時代とともに変わって、ナツメ茶はなかった。そのか
福岡ーソウルの飛行時間は一時間半。実際に飛んでいる時間は一時間もかからないだろう。あっという間なのに私には長かった。姿勢が楽じゃないから。
同行のユリヘルパーは、搭乗後から着陸までの間は休憩タイム。韓国入国の書類は、出発前に宿泊ホテル住所や記入内容を書いたスケジュール表を渡してあるので、各自記入することになっている。私の書類はナナさんが記入してくださった。
仁川空港は、ソウルより西側にあり、韓国の北北西、黄海側(中国)にあり、北朝鮮との国境も近く、ソウルへ向かう道中から北側に山も遠くに見えるほどだ。
私がナナさんのグループに新人で配属され、ソウル往復の日帰り便で着陸していたのは金浦国際空港。しかも着陸時には「窓からの空港撮影は禁止」と、機内アナウンスが必要だった軍事政権の頃だ。
インチョン空港ができる二十年〜十七年前の当時の記憶を冷静に思い返すたび、自分が手術入院のブランク時代を経てバリアフリー完備の輝かしい仁川国際空港に降り立てる喜びを感じてしまう。
着陸後、乗客全員が下りた後で私の降機が始まった。アシアナ航空のCAの皆さんも荷物を持って手伝ってくださるが、基本は私たちだけでまたアイルチェアに乗せてもらって、狭いお台所でUターンして後向きで飛行機
【介助の危険】
ボーディングブリッジの広場に下りる時に今回の最大ヒヤリハッとが起こった。
背が高いアシアナ 男性スタッフが途中からアイルチェア足元を持ってチカラを貸してくださったのだ。スペースがない中で、私の人工関節を取った良くない足を押す格好になり「イタイ―ッ」大絶叫するというハプニング。(大汗)
正直、接合した骨が折れたと思った。
私の左足は、膝関節を無くして大腿骨と下の骨をチタン製のビス四本で固定して骨を接合してある。曲げられないし立ち上がらないため「麩・ふ」のようにカスカス。骨粗鬆でもろいのだ。
今回の旅行前、母の介護ヘルパーさんの知り合いがソウル旅行中にトイレで転び骨折しちゃった話を聞いたばかりだった。
骨折=出血。出血があると(血管が膨張し、もっと出血)飛行機に乗れない。その人は船での帰国となり、保険もかけてなかったらしく百万円も支払うはめになったそうだ。その話を我がことのように聞き、直ぐに私はネットで同行者グループ保険に入っておいた。
予期しない出来事は時に起こるものだ。
車いす海外旅行するには、
一 タフなマインド(起こった後どうすればよいか、気持ちを切り替える)
二 必要なヘルプは、はっきり率直に遠慮せずお願いする
三 自分たちのやり方を宣言、ヘルプは要らないと初めにお断りする
起こりうる事は予測して事前に手を打っておくことが大事。
ソウルに到着した後、さらなるハプニングが待ち受けていた・・・